私が生まれたとき そこには母が居た。
記憶は朧げだが、父も居た。三人で一緒に居た。

セラが生まれたとき
やはり母が居た。父も居た。私も居た。四人で一緒に居た。

やがて父が居なくなった
私たちは三人になった。それでも一緒に居た。

間もなくして母も居なくなった。
私はセラと二人になった。やはり一緒に居た。

そしてセラが嫁にいった。
ついに私は、一人になった。

ひとりぼっちに、なってしまった。

 

 

 

 

セラが幸せになる事は、私にとってこの上ない至福である事には変わりない。
心の底から祝福出来た。それも嘘ではない。
相手がスノウだという事も異論は無い。あいつなら、安心してセラを任せられる。

ただ、セラが居なくなってみると、予想以上に寂しかった。
一人には慣れているつもりだった。
しかし仕事が終わり、静まりかえった部屋に一人で居ると、嫌でも孤独を自覚してしまう。

(…そういえば、ルシになった時も、なんだかんだ誰かと一緒に居たな…)

一人で生きてきたつもりになっていたが、私には常に誰か居た。
とはいえ親しい存在は居ない。
軍の奴らとは仕事以外では絡まないし、セラを育てる一身で生きてきたから、友人なんてものも居ない。

いや…居たといえば、居たのだが
この先、ずっと仲良くやって行ける。そう思っていた女性は、今はクリスタルになって眠っている。

(ファングとは…共感出来る部分も多かったんだけどな…)

はぁ、とため息をつく。こんな事を考えるのも、今が平和な証拠だろう。
もっと普通に出会いたかった。出来るなら、あの二人とも同じ時間を生きたかった。
それは彼女らも望んでいてくれたのだろうか…

 

再度ため息をつく。やめよう、考えるのは。考えるだけ無駄なのだから。
セラにはスノウが居て、ファングにはヴァニラが居る。サッズにはドッジが居るし、ホープには親父さんが居る。
結局、一人ぼっちなのは自分だけなのだ。そういう生き方をしてきた自分の責任なのだ。
大切な仲間は幸せなのだ。ならそれで構わない。

「……生き甲斐を失った老人みたいだな。全く」

ライトニングは苦笑する。
ああ自分は独り言を言うようになったのだと思うと、それが更に感情を煽った。

 

 

ヴーッ、ヴーッ

 

 

そのとき携帯が鳴った。さしずめ仕事関係だろうと予想しながら画面を見ると、知らない番号だった。
出てみれば解るだろうと、とりあえず出る。

「あ、もしもしライトさん?」
「誰だ」
「やだなぁ、僕ですよ。番号登録してなかったんですか?」

酷いですよ、と声の主は笑いながら言う。
その声があまりにも懐かしくて、思わず名前を呟いた。

「…ホープ」
「そうです、ホープです。ライトさんお久しぶりです。お元気でしたか?」
「ああ。特に変わりはない」

嘘だ。だいぶ、弱った。

「僕も元気です」
「そうか。別に聞いてないが」
「相変わらずだなぁ。本当、変わってないですね」
「だからそう言っているだろう。で、何の用だ。急に電話なんか」
「ああ、そうそう。ライトさん、明後日何の日かご存知ですか?」
「明後日??コクーン復帰三ヶ月の記念日だろ」

知らないわけがない。警備軍の私は、コクーンのイベントは熟知している。
三ヶ月記念のイベントにも出動予定だ。

 

ラグナロクからたった三ヶ月だが、コクーンは驚くべき復帰を遂げた。
コクーンのファルシの力は無くなったものの、元々科学技術が発展していた為、
パルスのファルシを代用する事でエネルギー問題は難なく解決した。
それにより街は異常なまでの早さで復興し、以前の姿を取り戻しつつある。
この方法が根本的な解決になっているかは定かではないが、残念ながらコクーン市民はこの生き方しか知らない。

「花火を上げる装置も修復したそうです。今度の記念日には、打ち上げるらしいですよ」
「そうだな。コクーン市民は花火が好きだからな」
「僕、行こうと思うんです。イベント」
「…?そうか、行ってこい」
「ライトさんも一緒にどうですか?」

………?

 

「僕と一緒に花火を見てくれませんか?」

 

正直、胸が暖かくなった。私はホープの誘いを「嬉しい」と感じたのだと、はっきり解る程に。
ただ答えは決まっている。

「残念ながら、その日は仕事だ。花火を見るお前らの警備をするのが私だ」
「うん、だから、そのとき一緒に見ましょうよ」
「??何を言っている??」
「僕が仕事中のライトさんに会いに行きます。一緒に見ましょうよ」
「…私はあくまでも仕事だぞ…」
「それでもいいです。花火の時、僕の隣にライトさんが居れば、それで」
「 なんだ、それは」

まぁとにかく、花火の時に電話しますから。約束ですよ!じゃ!
そう言うと、ホープは潔く電話を切った。
半ば一歩的に話が進められ、呆気にとられてしまう。
彼はこんなにも積極的だっただろうか。
もっと怯えた犬のような感じでは無かっただろうか。

 

-----------------------ライトがそう云う風に育てたんだろーが。

 

ファングの声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

コクーン復帰三ヶ月記念当日。
イベント開催予定時刻よりも大分早く現地に着いた警備軍だが、既に人は溢れかえっていた。

「今回はまた…凄いな……」
「仕方がないっすよ。今回は花火がありますからね」

部下が、こりゃあ大変だと肩をすくめる。

「窃盗が多そうだな。面倒だ」
「そうですねぇ。花火見てる時って皆無防備ですから」
「花火の時間が、一番目の光らせ時だな」
「そういう事になるっすね。あーあ、折角の告白花火なのに」

告白花火?

「なんだ、それは」

部下の発した単語に、無意識に聞き返す。

「あれ?軍曹ご存知ないっすか?  
 今回の花火の最後に、いつもやらない特別な花火があるんすよ。
 こう、打ち上げたら花火が文字になって、愛する人にメッセージを伝えるってやつです。
 
例えば軍曹に想いを寄せる人がいたら ”I LOVE LITENING” みたいな感じで花火があがるわけですよ」

 

I LOVE LITENING…

 

”僕と一緒に花火を見てくれませんか?”

 

 

ホープの言葉が蘇る。
どきり、とする。まさかな、と、そう思いながらも心拍数の上昇を僅かに感じる。

「?軍曹、顔が赤いっすよ」
「ばっ!そんなわけあるか!いつもと同じだ」
「ははっ!大丈夫っすよ〜。自分、花火の許可確認の際に詳細見せて貰ったんすけど」
「えっ?」
「どんな愛のメッセージが打ち上げられるのかなって、内緒で見せて貰ったんすよ。
 でも、どっこにも”ライトニング”なんて単語はありませんでしたから!!」
「え……あ、そう、か…って当たり前だろう!何を確認している」


そうはいいつつも、ライトニングは拍子抜けする。
安心したような、残念なような、形容しがたい気持ちだが、
とりあえず、この数十秒で酷く疲れた気がする。

「軍曹もしかして、期待してました?」
「そんなわけないだろう!私に男など必要ない!」
「軍曹、そんな事言ってたらいつまでたっても彼氏出来ませんよ」
「彼氏が出来ないんじゃない。必要ないんだ」
「出た。出来ない人の口実。
 
黙ってれば完璧なのに、勿体ないなぁ。
 自分が軍曹だったらもっと……っと、冗談ですって〜」

殺意の籠った視線を投げる。蛇に睨まれた蛙のように、部下は硬直した。

「おしゃべりが済んだなら持ち位置につけ。お前は南ゲート側だろう。
 私は此処だから。ほら、さっさと散れ」

しっしっと部下を散らす。
怖い怖い、と言いながら部下は去って行った。

 

…確かに、こんなんだから、ひとりぼっちになるんだろうな。
自覚出来ていない訳ではない。でも、素直になれない。そういう性なのだろう。
それとも…自分を変える存在が、現れるのだろうか?
男勝りな自分も、普通の女の子のように…

「告白花火なんて糞な企画してんじゃねぇよ!この糞、聖府!…ヒック」

そのとき一際大きい声で罵声を上げながら、記念日モニュメントを足蹴にする男が現れた。
酔っぱらっているようだ。そして、どうも彼も独り身のようだ。
人を掻き分け彼へと近づくと、ライトニングは丁寧に話しかけた。

「すみませんが、周りのお客様の迷惑になりますので、そういった行為はご遠慮願います」
「ぁあ?お前警備軍か!見てんじゃねぇよ、糞女!」

男がライトニングに向かって拳を振り上げる。
私はその腕を掴むと、不自然な方向にねじ曲げた。

「いでででででででで!!」
「失礼ですが、ご同行願います」

注意を無視し、行動を省みる様子なく歯向かう者は強制連行が許可されている。
長ったらしく説得するのも面倒なので、男を引きずり会場の外へと連れて行く。

背後から、わぁっと歓声が聞こえた。強い、だの、かっこいい、男らしい、だの。
…やっぱり私には、こういう役割が似合っているのかもしれない。非常に残念だが。

 

 

 

 

 

時間が経つにつれ、会場には更に人が増えていった。
ライトニングも警備の目を光らすが、先程の酔っぱらい以外は特に問題は起きていない。
そして空も暗くなり、花火の予定の時刻が迫った。

「そろそろだ。全員注意するように」

無線で部下に連絡を入れる。
「了解」の返事が部下の数と一致したのを確認した時、会場の中心に、カーバンクルが現れた。
とは言ってもファルシのカーバンクルではなく、それをモチーフにしたキャラクターで
コクーンのイベントではおなじみの存在だ。

 

『今日はコクーン復帰三ヶ月!皆、来てくれてありがとー!
 夢の時間の、始まりーー!』

 

ドォォン!

 

アナウンスと共に、花火が打ち上げられた。
わぁっと観客は一斉に空の虜になる。
久々の空の輝きに、ライトニングも一瞬目を奪われてしまった。

その時、携帯が震えた。
ライトニングははっとする。急いで電話に出た。

「ホープか?」
「ライトさん!良かった繋がって。あの、今何処にいますか?」
「私は北……付近の管轄だ」
「え?もう一回お願いします!」
「北ゲー…」

 

ザッ  ザーッ

 

(…電波が…)

周りを見渡すと、携帯を手にしている者が目立つ。
テレビ電話をしていたり、またはメールで連絡を取り合っていたり。
回線が混み合っているのだろう。コクーンのサーバーは完全に復活したわけではないのかもしれない。

「お前は何処に居るっ!」

叫ぶように話しかける。

「僕……南ゲー……す」

南。微かだが、そんな単語が聞こえた。
ライトニングは携帯を切ると、無線で、先程まで一緒にいた部下に連絡をとった。
移動体通信であるため、こちらの電波は生きている。

「こちら南ゲート。軍曹どうかしましたか?」
「悪いが、担当区域を変わってくれ。お前は今から北ゲートを管轄しろ」
「へ?どうしました、何か問題発生ですか?」
「大丈夫だ。とにかく私は今からそっちへ行く。お前は北に来い。以上」

ライトニングはすぐさま南ゲートに向けて走り出す。
……何で自分はこんなに一生懸命なのだろう。部下を振り回してまで。
そんなにする必要はあるのか?いや、ないはずだ。たかが花火なのに。
でも、何故だろう。「会えない」のは嫌だと思った。

自問自答を繰り返しながら走る。
答えを見つけだせぬまま、最後の花火が打ち上げられるのと共に南ゲートへたどり着いた。

 

「はぁ…はぁ…」
辺りを見渡す。少年の姿を探す。

「ホープ…」
電話をかけてみる。電波が混雑しており…とアナウンスが流れた。

「くそ…使えない…」

もう一度かける。やはり繋がらない。それでもライトニングは再度かける。

(頼む…繋がってくれ)

縋る思いでリダイヤルをする。
しかし無情にも、耳に届くのは聞き慣れたアナウンスだった。

 

『さぁてここからは今回の最大のイベント!
 花火で愛する人に想いを伝える、告白花火タイムだぁ〜〜〜!』

再度火が灯ったかのように会場の温度が上がる。歓声で揺れた。
きゃあきゃあと、カップル達が一層盛り上がる。ひとりぼっちが、余計に強調されたように感じた。

『最初の一発目は…これだ〜〜〜〜!』

ドォォン! と花火が打ち上がる。

「ぶっ!!!!」

その花火を見て、ライトニングは吹き出す。

 

"愛してるぜ !I LAVU SERAH!FOEVAR!"

 

セラ、愛してる。永遠に。…のつもりなんだろう。

「あの馬鹿…脳味噌筋肉…」

ライトニングは脱力する。なんという語学能力。
セラの名前のスペルが間違っていたら、殴りに行ったであろう。

遠くから、きゃー!嬉しーっ!大好きっ!という声が聞こえてきた。
妹では無いと信じたいのだが。

次々とメッセージが打ち上がる中、ライトニングは必死にホープを探す。
それでもこの人混みで見つける事が出来ないまま、時間だけが過ぎて行った。

 

 

 

 

『皆さんの熱いメッセージも、いよいよ次が最後ですっ!』

アナウンスが流れる。それはライトニングにとっては終了の合図だった。
ああ、結局、一緒に見れなかったな。

何がそんなに悔しいのか解らない。いや、悔しいのかさえも解らない。
ただ、残念だった。私は期待していたのだという事に、今更気付く。
だがもう遅い。
携帯電話も鳴らないし。ホープも諦めたのだろう。

最後くらい、イベントを楽しんでみようか。

ライトニングは空を仰いだ。
平和になったこのコクーンで、誰かの幸せを誰かのメッセージと共に、私も祈ろう。

 

『このメッセージを受けるアナタ!しっかり想いを受け止めて〜〜!』

カーバンクルがくるりと一回転し、指をパチンと鳴らす。
それが合図となり、最後の花火が打ち上がった。

 

 

メッセージを見るなり、可愛いー!と声が上がる。
年下の彼氏なのかな?等と盛り上がる人々の声を、何故か他人事には感じられずに。
どういう事なのだろう、と私は思った。目を疑う、とはこういう事を言うのかと。

 

”ずっと傍にいさせて、エクレール”

 

「まさか…な」

同じ名前の人間なんて、山ほど居るだろう。

「そんなわけがない」
「そんなわけありますよ」

突如、背後から声がした。
驚いて振り向くと、そこには探していた少年の姿があった。

「僕の気持ちです」

はにかみながら、にこっと笑う。

「いつから其処に居た」
「ずっと此処に居ましたよ。そしたらライトさんが現れたんです」
「なんですぐに話しかけない?」
「ライトさんの反応が見たくって」

ホープはいたずらな笑みを浮かべる。

「ライトさんが悪いんですよ。全然僕に気付いてくれないんだから」
「お前が小さいから気付かなかった」
「酷いなぁ。これでも少しは伸びたんですよ」

何が伸びた、だ。前より縮んだんじゃないか?と私は頭をぐぐっと押さえつける。
やめて下さい、と手を振り払おうとする彼があまりにも平和で、
自然と微笑んでいた事に、私は気付かない。

「やっと会えましたね。花火、終わっちゃいましたけど」
「…ああ」
「残念ですね」
「別に良い…結局会えたのだし」
「!…そうですね」

また、にこっと笑う。この笑顔は久しぶりだ。
道中ずっと私を支えてくれた笑顔。あの時と少しも変わらない。

 

「で、あの…だな」
「はい?」
「どういう意味だ」
「へ?」
「だから、さっきの…」

ライトニングは空を指差す。
ああ、と理解したホープは、少し恥ずかしそうに答えた。

「そのままの意味ですよ」
「……私と一緒に居たって、楽しい事はないぞ」
「ライトさんと一緒だと,鍛えられますから」

まぁ、だいぶ鍛えられましたけどね、と彼は笑う。
調子に乗るな、アホ。と額を小突く。
ふと、懐かしい感覚を覚えた。 以前もこんな事があったな。とライトニングは思う。
お前を守ると言った私に対しての、彼の台詞----------

 

---------------------出来れば僕も、ライトさんを守れたらって

 

あれを聞いたとき、言うようになったものだ、と思った。
気恥ずかしいのと嬉しいのとが入り交じって、当時も私は彼の額を小突いた。

「!っ…ライトさん?」

唐突な私の行動に、ホープは戸惑う。
それもそのはずだ。私は彼を、思い切り抱きしめたのだから。

「私の傍に居たければ、勝手にしろ」

抱きしめる手に力を込める。
以前と少しだけ感覚が違うのに気付き、少年が成長したことを実感する。

「その代わり…そんな簡単には、離さないからな」
「…離れませんよ。僕は」

ホープも私の背中に腕を回す--------と思いきや、そのまま片手を私の頭に添えた。
そのまま、くいっと顔の向きを変えられる。…と……

 

「!!!!---------っ!」
「…約束です」

 

ばっ!と身体を離す。凄い早さで熱を帯びていくのが解る。
きっと私は今、真っ赤な顔をしているのだろう。
そう思うと余計に恥ずかしくなる。
対するホープは、相変わらず例の笑顔を浮かべるだけだ。

「お前…な、なんてことするんだ!自分のした事解ってるのか?!」
「だって。ライトさんが、ぎゅってするから」
「だ、だからって…」

だからって、こんな場所で、そんな事をいきなり…
それに、私は……

 

「嫌でしたか?」
「え?」
「キス」
「そ、そういうんじゃないが…」

私は……

「………て…なんだ」
「え?」
「は、初めてなんだっ!こういうのは…その…」
「……え…」
「だ、だから、どうして良いか解らないっていうか
 その、あの、なんだ、決して不快になったわけじゃなくて、その…」

兎に角恥ずかしくて、今の状況をどうにかしたくて必死に取り繕うのだが、
如何せん動揺しているので、しどろもどろしてしまう。
なんだかもう、自分がどうなっているのかすらよく解らない。

「ライトさん…」

ホープがそっと手を握ってきた。

「大丈夫ですよ。僕も、初めてですから」

そ、そうか…とライトニングは返事をする。ろくな返事も出来たもんじゃない。

「わ…私が初めてで良かったのか?」
「そんなの……」

ホープは言いかけ、ライトニングの身体をぐいっと引き寄せる。
全てを言葉にすることはなく、再び唇を塞いだ。

「……〜〜〜〜っ!!」

先程より、長いキス。
何のつもりでこんな事をするのか。ホープの考えについていけないのと、
経験が無くて、予想もしていなくて戸惑う気持ちと、
周囲の目が気になる気持ち、
そして何より,このまま時間が止まれば良い、という
思いがけない自分の感情が入り交じって、ライトニングは何も考えられなくなっていた。

「初めてでも何度でも、僕はライトさんなら構いません」

脳がくらくらする。
目の前の少年が、もうただの少年では無い事に、ライトニングはようやく気付く。

「…生意気だ。ホープのくせに」

ぷいっとそっぽを向く。しかし握った手は離さない。
その様子を見てホープはくすっと笑うと、その手に力を込めた。

「これからは、ずっと僕がライトさんを守って行きます。  
 
変な虫が寄ってきたら、追い払ってやりますよ」

真摯な瞳で宣言する少年。
純粋なその気持ちが暖かくて尊くて、泣きそうになる。

「…そういうのが生意気だっていうんだ」

 

 

 

 

 

本当は寂しかった。本当は求めていた。
必死で必要ないと言い聞かせてた。私は、強くあらねばならなかったから。
一人でも平気じゃなくてはいけないと思ったから。

でも

「ホープ」
「?なんです?」

 

でも……

 

「有難う」

 

解放してくれて、有難う。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

 

 

 

「軍曹、あの日結局なんだったんですか?突然担当を変えろ、だなんて」

休み時間、コーヒーを片手に作業をするライトニングに、例の部下が声をかけた。

「すまなかったな。色々あったんだ」
「しかも軍曹、そのままトンズラしたでしょう!
アモダ曹長が怒ってましたよ。報告が無いって」
「うるさい。報告書なら今書いてる。邪魔をするな」

強い口調で言い放つライトニングに「ご機嫌ななめですか〜…」と呟く。
別に機嫌が悪いわけではないが、まさか本当の事など言えるはずもない。

「おおい、この前のイベントの様子がニュースでやってるぞ」

テレビを見ていたアモダ曹長が音量を上げる。
その空間に居た者が皆、自然とテレビに目をやった。
画面からは、綺麗な花火や盛り上がる観衆が鮮明に映っている。

「いいっすね〜。一般人は楽しめて」
「しょうがないなぁ。俺らは楽しむ為に参加してるわけじゃないから」

そんなに楽しみたいなら、辞めちまってもいいんだぞ?
えぇ〜、アモダ曹長、冗談キツいっすよ〜〜!
そんな彼等のやり取りをさらりと聞き流し、ライトニングは報告書の作成に勤しむ。

『なんといっても、今回の目玉は告白花火!
 ロマンチックなイベントに、世の恋人達も盛り上がったようです☆』

画面が例の告白花火のシーンに切り替わった時だった。室内の空気が一変する。
皆が「え?」と口々に疑問符を掲げ、
その場に居た全員がライトニングとテレビを交互に見やった。
視線を感じ、一体なんだ?とライトニングはテレビに目をやる。
と、

「ぶっ!」

同時に飲んでいたコーヒーを吹いた。

 

そこには、ライトニングがホープを抱きしめるシーンが映っているではないか。

(なんでっ…何処のテレビ局だ!許可なくこんな堂々と顔を映しやがって…!)

なおも映像は続行する。ライトニングは思う。このままじゃマズい。

「アモダ曹長、チャンネル変えましょう!」

必死の形相で懇願するライトニングの姿も珍しい。

「アモダ曹長!お願いです、曹長!チャンネルを…!」


アモダ曹長はそれが面白いのか、にやにやしながらもチャンネルを変える様子はない。
映像は止まる事無く流れて行く…

「や…やめろ!駄目だ!お前ら見るな…見るなぁぁあぁあ!」

 

ライトニングの想いも虚しく、画面の中の二人の男女は、そのまま唇を重ねる…。
最初は軽く、次は、深く……普段の姿からは想像も出来ないライトニングのキスシーンの始終は
見事に全国に放送された。

 

 

「……」

 

ぽん ぽん

 

放心するライトニングの肩をアモダ曹長が叩く。

「解りやすい報告ご苦労さん。それ、もう提出しなくていいからな。
 それにしても、そうかそうかぁ、軍曹に男かぁ。やはり年下だったかぁ」

にっひっひ、と笑いながら、アモダ曹長はゆっくりとチャンネルを変えた。

 

 

その日のライトニングの携帯が鳴りっぱなしだった事は、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

その夜、ホープからメールが入る。
あいつもさぞかし困っているだろう。申し訳ない気持ちでメールを開く。

 

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送信者:ホープ
件名 :撮られちゃいましたね
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本文 :

これで僕たちは公認ですね☆

        アナタのナイトより
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「………あの……馬鹿…」

 

 

 

……………………くそ。愛おしい。






--------------------------------------------------------------------------
甘い。


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