「次の目は〜‥1。‥進まない上に、休日マスじゃない。最悪‥」


何度目になるのか解らない溜息をついたのは、気の強そうな赤毛ツーテールの少女。




只今、いただきストリートで勝負中。
参加メンバーは、ククール、ゼシカ、エアリス、そしてクラウドだ。
開始から随分時間が経つが、ゼシカは今だにレベルアップ出来ない。
他の者はレベルがそろそろ3になるというのに、ゼシカだけは1のままだ。


「どうして小さい目しか出ないわけ?!あーっ!いらいらしてきた!!」


振り終わったダイスを次の人-------ククールへと投げつける。
渾身の力を込めて投げつけられたそれを、彼は慌てて受け止めた。


「あっぶねぇな。もっと普通に渡せよ、普通に」
「煩いわね!男なんだから、それくらいしっかり受け取りなさい!」



はいはい。解ったよハニー。
眉を寄せてる明らかに不機嫌なゼシカに苦笑し、ククールはダイスを振る。




ころころころ‥‥ぴたっ。


6。



「次の目は6‥か。  お、ラッキーマスじゃねぇか」


これはついてる。 そう言いながらゼシカの横を通過していく男を、ゼシカは恨めしそうに思った。
ああ、ついに3週差がついてしまった。



「なんでアンタばっかり大きい目が出るのかしら。
 ねぇ、そのダイス、何か細工してるんじゃないの?」



ククールの事だからありえるかも。
黙って聞いてれば先程から めんどいめんどいと愚痴を零しているし、
さっさと終わらせてしまいたいのかもしれない。その可能性を疑った。



「失礼な。そりゃ、やろうと思えば出来なくも無いが、一応これも勝負だからな。
このダイスには何も細工してないぜ。俺を信じなよ」
「本当かしら」



ククールは、嘘は吐かない。
その事を知っていて尚 彼に構う自分に、軽く舌打ちしたくなった。



「信じろって。俺ばっか良い目出るのはイカサマじゃなくて、 俺についてる神様の力だな」
「アンタみたいなエセ修道士に、神様が力を貸すとは思えないんだけど?」
「俺の神様は女なんだよ。俺の美しさに女神様もメロメロってわけ。
 じゃなきゃあアレだな。ダイスにも俺の魅力が通じてんだろ」



何言ってるんだ、この男は。 ゼシカは大きく溜息をつく。



「何ならゼシカも俺の女神様に祈ってみればいい。
 お前は俺の認めた女だから、きっと女神様も力を貸してくれるぜ?」
「私の方はアンタを認めてないんだけど、いいのかしらね?」


神頼みなんて、そんな何の根拠も無いことをして、何が変わるというのか。
とはいえ、当のククールは確かにいい目を出してるわけで。


「まぁ‥気休めになでばいいわ」


ゼシカは静かに祈り始める。



-----------バカリスマククールの女神様、どうか私にもいい目を出して下さい。
ぎゅっと目を瞑り集中していると、足元にダイスが転がってきた。




「ゼシカ、アンタの番だ。さっさと振ってくれ」


自分の番を終えたクラウドが、ゼシカに向かってダイスを寄越していたらしい。


「解ってるわよ。すぐ投げるわ」


そのダイスを持ち上げると、ゼシカは ちら、とククールに視線を向ける。
ククールと目が合うと、“大丈夫だから、投げてみ” と瞳で促された。


「何だか本当に大きい目がでるような気がしてきたわ‥」



ゼシカは深く深呼吸すると、力一杯ダイスを振った。





ころころ〜‥ ぴた。 








5!!!





今までに無く大きい目が出た。お祈りの効果だろうか。

「ククール!出た!本当に出たわ、大きい目!
アンタの言う事だから馬鹿にしてたけど、効果あるのね。凄い!」


はしゃぎ喜ぶゼシカだったが、ククールの方は複雑な顔をしていた。


「いや‥確かにデカイ目は出たが‥‥でもなゼシカ」
「やったわ、この調子でいけばレベルアップもすぐそこね」


どうやら興奮しているゼシカに、ククールの声は届いていないらしい。
煮え切らない様子のククールを尻目に、本人はうきうきで歩き出していた。


「さてと、1,2,3,4、5〜と‥‥え」


しかし、あと一歩で5歩目という所で ピタリ、とゼシカの足が止まった。
そのまま暫しの沈黙が流れたかと思うと、ぽつりと呟きだす。


「なによこれ‥」



ゼシカの目の前には、それはそれは馬鹿デカイ立派なオリハルコンの店が。
しかもその店の持ち主は、他でもないククールで。


「‥‥や、あの‥‥ゼシカさ〜ん?」
「‥‥じらんない」


ゼシカの身体から、なにやらどす黒いオーラが醸し出される。
その禍々しさといったら、杖に操られていた時の比ではない。
次第に濃く、深くなっていく暗黒オーラは、ゼシカが残りの一歩を踏みしめた時にMAXになった。



チャリリ−ン



お金の零れる音が響く。
ゼシカの現金欄が黒字から赤字になる。
審判からゼシカに『破産』の二文字が送られる。
ゲームが終わる。


しかし二人のゲームはこれから始まる。
ゼシカがゆっくりククールを振り返る。
ククールの顔色が青から紫になる。





「信じらんない!!!!なんて事すんのよ馬鹿ーーッ!!」
「違ッ、わざとじゃねーって!これは偶然で‥!」
「違うも何もないわよ!女神様って何よ?!アンタが祈ればいいっていうから祈ったら
 見事にオリハルコンの店よ!結局アンタだけの女神じゃない!」



どす黒いオーラはそのまま魔力へと変わり、ゼシカの手のひらに収束していく。



 「少し落ち着けよ、な?確かにデカイ目は出ただろ?嘘は言ってねぇって。
  ‥え、ちょっと待って。何やってんの?
 いやいやメラゾーマはヤバイって。やめた方がいいって。フィールド壊したらマズイぜ、なぁ」
「大体どうしてこんなに早くオリハルコンの店なんて建てるのよ!
 あんた、女の子に優しいんじゃなかったの?だったら、もっと良心的な値段にしなさいよねー!」
「そう熱くならずに、ハニー。話なら、後で俺がゆっくり聞いてやるから‥ってうわああああぁあ!!」









突如燃え上がる、火柱。
一部始終を見ていたエアリスは、隣にいたクラウドに話しかけた。


「ゼシカさんとククールさん、とっても仲が良いのね。
 私達もあの二人みたいに、燃え上がるくらい仲良くしてみない、クラウド?」
「‥いや、俺はいい」


この時、純真無垢な笑顔を向ける彼女の手には
炎のマテリアが握られていた事を、クラウドは知っていた。




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