どかどかどか と
音を立てて歩くのは、彼にしては珍しい。
そしてこれは機嫌が悪く、
かつ少し苛立っている時特有の現象なのだと、僕は心得ている。
それは「不機嫌なんだね」と言う僕に対し
「関係ねーだろアンタに」と返す辺りで確信が持てたりもする。
ククールは不機嫌な時、相手を「お前」ではなく「アンタ」と呼ぶ。
自分と他人の距離を作る事で、彼なりに自己防衛してるのだろうと僕は考えていたり。


「で?何があったのさ、一体」


先程のククールのセリフは完全無視で僕は話を進める。
一瞬彼は くどい、と言わんばかりの眼差しをくれたが、
僕の素敵すぎる無邪気な笑顔(作戦)を見て諦めたらしく、ため息まじりにぽつりぽつりと話し出した。


「あいつ、本当に根っからのブラコンなんだよ」


あいつというのは、恐らくゼシカを指しているのだろう。
ククールが他人の事を気にする時は、ゼシカかマルチェロに相場が決まっている。
会話の流れからして後者は有り得ないので、選択肢は一つだ。
お前も人の事言えないだろう、という本音を抑えて、僕は続きを待った。


ククールは近くにある椅子に腰を降ろし、テーブルに頬杖をついて話し出した。


「いたストなんだけどな」



いたスト?



「いたストとゼシカのブラコンに、なんの関係があるのさ?」
「まぁ聞け。そこにクラウドって奴がいるんだけどな」


クラウド…ああ、知ってる。某ゲームの柱キャラみたいな人だ。
いたストのオープニングでも目立ってたし、多分そうだ。
そういえば今度DVDにも出演するって云う噂を聞いた気がする。
いいなぁ。


「その、クラウドって人がゼシカに何かしたの?」


僕の記憶が正しければ、確か彼はクールで誠実で、
女装はしても女性を口説くような人ではなかった筈なので、それは考え難いのだけど。


「いや、何もしてない」


案の定だった。


「ただな、ゼシカの方がさぁ…」


彼はそこで口を閉ざし、ああ、と小さく呻くようにテーブルに突っ伏した。


「ゼシカが、どうしたの」
「まさか現れるとはなぁ」
「どうしたのってば」
「絶対いねーと思ってたのによ…しかもFF…有り得ないだろ。有りか?いや有り得ねえよ。
 つーか反則だろ。存在すんのかよ、嘘だろぉ」
「僕の話聞いてる?」
「クラウドがゼシカの兄貴に似てるんだと」


突然話が戻って来て、しかも内容が内容だけに僕は一瞬頭が回らなかった。


「…サーベルトさんに?」
「そうらしい」
「嘘だ」


僕は即答していた。


「ゼシカが仲間になる前、リーザスの塔に登ったことがあって
 リーザス像がサーベルトさんの最後を見せてくれたんだ。
 その時のサーベルトさん、サラサラヘアーだったよ。
 兜を被っていたから詳しくは解らないけど、少なくとも金髪つんつんじゃない」


ククールは目を丸くして、小さい声で 見たのか、最後を  と呟いた後
思考が本題に戻ったのか「いや、でも…」と続けた。


「中身が似てるのかもしれない。冷静沈着、強くて無愛想」
「サーベルトさんは無愛想じゃないと思うけど…」


それに今ククールが言った条件だと、クラウドさんよりスコールさんの方が当て嵌まる気がする。
それだったら髪形も納得出来るし。


「でも彼は引っ張るより引っ張られるタイプだよ。
 ゼシカは引っ張ってくれるタイプがいいんでしょ?おかしいよ」
「お前、なんでそんなにクラウドに詳しいんだよ。会ったことないだろ?」
「いや実は、昔小間使いをやってる頃、
 姫様が懸賞で『これで貴方も完全マスター!FF道 楽三泊二日の旅』っていうのを当ててさ。
 僕もお供した事があるんだ。懐かしいなぁ。
 姫様はチョコボがお気に入りで、あの時の笑顔といったらそりゃもう絶品で」
「はいははいはい、お前の惚気はいらないからよ。
 兎に角、問題なのは実際にクラウドとゼシカの兄さんが似てるかどうかより、
 ゼシカが 似てるって断言してる事なんだよ。俺とゼシカとクラウドが一緒の時なんてな、もう最悪」


その時の状況を思い出したのか、ククールは頭を抱えた。


「ちょっと待って。クラウドさんとサーベルトさんが似ていたところで、君に何の損があるのさ?」


別にクラウドさんを【兄】として慕うだけなら、ククールには何の損害は無い筈だ。


「だからさ、ゼシカは彼氏にするなら
 サーベルト兄さんみたいな人がいいって、前々から言ってたろ。
 俺はそんな奴絶対存在しないと思ったからよ、対して気にもしていなかったんだ。それがなあ…」
「ああ、クラウドさんが現れた、と」


ククールはうなだれたまま、小さく頷いた。
余程ショックなのだろう。
サーベルトさん二号が現れるなんて、僕だって予想外だった。


「でも、ゼシカが今だにサーベルトさんのような人を
 恋人にしたいと思ってるかどうかは 解らないよ。
 昔はそう思っていても、旅をするうちに変わったかもしれない」


軽薄だとか女好きだとか、
そういうのも全部引っくるめて、彼女は君を見てくれていた事、君は気づいていただろう?


そう続けようとした僕より、声色を変えたククールが先に口を開いた。


「『クラウドさんって強いだけじゃなくて顔もいいのね…ぽっ』」
「‥‥‥‥は?」
「ゼシカが言ったんだよ、ゲームしてる時にな。
 散々男は中身中身言っといて、結局顔かよ。つーか顔なら俺の方が絶対上だろ」
「ち、ちょっと待って。それ、本当にゼシカが言ったの?ぽって、ゼシカが??」


ゼシカがそんな事言うようにはどうしても思えなかったので、
僕は思わず聞き返してしまった。


「ああ言った。確かに聞いた。極めつけはこれだな、
 『さすがクラウドさん!ますます私…う、ううん!何でもない!』」


ククールは再び再現してみせたが、今度は声真似はせず、棒読みだった。


「乙女全快って感じだろ?初めて見たよ、あいつのあんな顔。
 痛てぇよな、マジ痛てぇ」


クックッと、ククールはどこか自嘲気味に笑った。





君のそんな顔も初めて見たよ、ククール。



キュ、と 胸の奥が縛られたように痛んだ。






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いたストで、プレイヤーをクラウド、CPをゼシカにしてゲームすると
ゼシカがクラウドに対し、気があるかのようなコメントを言います。
他にも「お前ゼシカか?!」な感じのコメントを言うので、いたストお持ちの方はレッツチャレンジ!!
ちなみに、タイトルの意味は「不完全燃焼」(笑)
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